− 進化の歴史 −
≪1≫ メカ生体ゾイド誕生、意外な出発点・・・
 ■1980年代初頭、当時の株式会社トミー(現タカラトミー)は、
アメリカ市場向けに、アクショントイの新ジャンルを確立すべく、
マイクロゼンマイを動力とした接着剤不要の組み立てキットモデル、
その名も「ZOIDS」(ゾイド)を企画、販売を開始しました。
「ZOIDS」とは・・・『 ZOIC 』(動物の〜もしくは動物的な) +
『 ANDROID 』(アンドロイド、疑似生命体)からの造語で、
販売形態としては、アメリカのスーパー等でも扱えるように
吊し箱形式を採用することにし、接着剤を使わない簡易性と安全性、
そしてゼンマイを動力としたその独特な動きで注目を集めます。
歴代ガリウスの箱、左が最も古い1981年の海外版
中央が1983年の国内版。右がその後の共和国機版
新たにRMZ-01の形式番号が振られ、箱にも記載
 ■1982年・・・この「ZOIDS」を国内でも販売する計画が持ち上がり、
国内向けには内容を同じくしながらも「未来型組み立てキットモデル」として、
パッケージを従来のプラスチックモデルキットによくあるかぶせ箱方式に改め、
商品名も『 MECHA 』(メカ、機械) +『 BONE 』(ボーン、骨組)の造語、
「MECHABONICA」(メカボニカ)として発売を開始しました。
余談:初期ゾイドが通称「骨ゾイド」と呼ばれるのはこのため?!
メカボニカのパッケージ
SFブーム、宇宙開発ブームに合わせてイメージされたメカボニカでしたが、
(キャッチフレーズは「宇宙への使者 機械生物!!」)
テレビアニメのような宣伝媒体もなく、具体的な背景設定もないキャッチの薄い形態で、
アメリカでのヒットに比べ、国内では売り上げが芳しくありませんでした。
 ■1983年・・・当時国内ではLSIゲームブームが下火になり、
玩具関係各社では新ジャンルのヒット商品開発に試行錯誤が繰り返されていました。
その中でアクションモデルに注目が集まり、ならばとメカボニカを再生する企画が立ち上がりました。
モニター調査の結果、結局アメリカと同様の吊るし箱式が良いとの結論に至り、
商品名もメカボニカから、海外と同じ「ZOIDS」としてリリースされる事が決定、
店頭実演戦略も重視され、良く目立つ大きなモデル、動き続けるモデルとして、
初の大型電動ゾイドである竜脚類型のビガザウロがラインナップに加わりました。
こうして大ヒット玩具「メカ生体ゾイド」はその歴史をスタートさせたのです。
最初期ゾイド、ガリウス
余談:ビガザウロの店頭展示は予想以上の効果を見せ、
1日に3桁ものゾイド商品を売り切る店舗も現れるほどでした。
大型電動ゾイド、ビガザウロ
首を大きく上下に振りつつ
四本足でゆっくり歩行する
≪2≫ヒット商品へ向けての模索、ゾイドの世界観を設定・・・
 ■1983年の発売当初、ゾイドは、
遙か宇宙の彼方「ゾイドゾーン」の金属生命体として、惑星間で戦うというストーリー。
この頃の子供達は宇宙開発に興味を持っており、ゾイドもそのイメージを重視、
惑星探査や調査能力を持ち、緊急時には武装して各惑星の戦場に集結するという設定でした。
SFブームでもあった当時、発売後の子供達への綿密な調査の結果、
背景にしっかりとしたストーリーがあってこそ遊びの世界観が広がる事がわかりました。
そこで本格的なプロジェクトチームを編成、アニメ界で活躍する作家やプロダクションを迎え、
ターゲットを中高生までに拡大、コアなファンにも許容できるだけの背景設定が作られます。
お風呂でも遊べる蛙型のアクアドン
ゾイドの初期モデルは組み立て式の
知育玩具としての側面も持っていた
このプロジェクトチームにより、ゾイドの世界設定は現在まで引き継がれている、
地球から遙か6万光年の彼方にある未知の惑星、ゾイド星(現惑星Zi)で、
ヘリック共和国とゼネバス帝国が覇権を争う戦記物として確立していったのです。
商品自体はティラノサウルス型の「ゾイドゴジュラス」が新たに加わり、
店頭の実演販売ではその斬新で迫力ある動きに子供達の視線は釘付けでした。
ゴジュラスは大ヒット商品となり、ゾイドの象徴として認知されていきます。
また、当時はアニメ等の宣伝媒体ありきのロボット玩具が大半を占めていましたが、
ゾイドは玩具オリジナルの強みで、アニメロボのような省略した直線的モールドではなく、
SF的な非常に複雑なモールド、玩具では珍しい組み立て方式により実現する低価格、
様々な恐竜や動物モチーフと多彩なギミックで、他の玩具とは一線を画していました。
アニメロボは知らなくても、ゾイドは見たことがあると言う人が多かったのも、
いかに魅力溢れる独特の玩具だったかを物語っているでしょう。
大人気となったゴジュラス
この時点でゾイドは、小型ゼンマイ12種、大型電動3種の、合計15点ものラインナップを誇り、
新商品が登場するたびにギミックやデザインが注目されるようになりました。
≪3≫玩具としての宿命、デザインへの挑戦・・・
 ■1984年・・・それまで設定上でしか存在していなかった敵側のゼネバス帝国独自のゾイド、
いわゆる「帝国ゾイド」のリリースが満を持して開始されました。
この帝国ゾイドが発売されるまでには、開発側の度重なる試行錯誤が繰り返されていました。
まず、今までに発売していたゾイド全15種をヘリック共和国側ゾイドとし、
対するゼネバス帝国側のゾイドには子供達の目から見てもすぐわかるように、
まったく違った、それでいて統一感のあるデザインが求められました。
ところがゾイドは玩具基準の商品で、プラモデルのように精密なパーツや
耐久度の低いパーツは安全基準から採用できないという問題がありました。
成型色も発色の良い顔料などはやはり安全基準に抵触して使う事は出来ず、
玩具基準ゆえの様々な規制に開発スタッフは悩まされる事になります。
試行錯誤の末、立体的にパーツを組み合わせる事で全体的な色とディテールを組み込み、
共和国側が複雑な凹凸モールドが全体に配され、青、グレー、白系なのに対し、
帝国側はいかにも重装甲を思わせるシャープなモールドと、赤、銀、黒系の配色で、
今までとまったく違ったデザインのゾイドを誕生させることに成功しました。
初のゼネバス帝国ゾイド
小型ゼンマイのマーダ
こうして初の帝国ゾイド第1弾として恐竜型の「マーダ」、続いて「ゲーター」「モルガ」に加え、
新型のパワーパックを内蔵したギミック満載の中型電動ゾイド「レッドホーン」が発売。
それまでのゾイドと違い、シャープで洗練されたデザインはそのまま両国間の技術の差を表し、
明確な敵側ゾイドの出現により、世界観の保管と共に大ヒットの要因となりました。
この頃からプロジェクトにより作られた設定をベースに漫画やプロモアニメ、
実際のキットを使ったジオラマストーリーやテレビCMも数多く制作され、
ゾイドは玩具業界に確固たる地位を築くまでに至りました。
ギミック満載の電動ゾイド
帝国軍の主力レッドホーン
ただしこの頃はまだ勧善懲悪モノのような設定で、
今とは違い共和国=正義、帝国=悪のイメージがありました。
余談:旧世代のゾイドファンの間で「ゾイド=ゴジュラス」と言う認識は、
この時代に製作されたプロモビデオや漫画の主役がほぼゴジュラスだったからです。
筆者もアニメ化されるなら主役はゴジュラスと、当然のように考えていました。
≪4≫書籍との連動、戦記モノへとシフト・・・
 ■1980年代後半・・・ゾイドは子供達のヒーローとして人気は最高潮となりました。
世界観の保管として店頭やイベントで小冊子を配布していたトミーは、
戦記劇画で有名な小林源文氏を迎えて制作した、初の公式書「ヒストリーオブゾイド」を発売。
この本では勧善懲悪モノでトカゲ人間のようだったゾイド星人の設定は一新され、
地球人と変わらぬ外見を持つゾイド星人達が派閥争いから共和国、帝国の両陣営に分かれ、
ゾイド星の中央大陸を舞台に、果てしない領土争いを繰り広げる内容になっていました。
この本に添う形で以降に登場するゾイド自体も兵器色を色濃くしていきます。
余談:この流れは当時トミーと小学館にいた軍事に詳しい方々の影響だそうです。
初の書籍ヒストリーオブゾイド
特製デカールが付属した
 ■1985年3月・・・サラマンダーの発売に合わせトミー側の設定も
ヒストリーオブゾイドにシフト。そして同年9月にはゼネバス帝国に
待望のゴジュラスのライバル機、帝国初の大型ゾイド、アイアンコングが出現。
ここからライバルゾイド対決の図式が確立、帝国の人気も高まって行きます。
 ■1986年9月・・・それまでのゾイドの常識を覆す超大型キット
「ウルトラザウルス」が発売。これは当時等身大の模型が駅前に設置される等
話題になっていた、実在したとされる恐竜ウルトラサウロスがモチーフ。
指令空母のようなイメージと、最多搭乗員数を誇るビッグモデルとして登場し、
その圧倒的な迫力と話題性で大ヒット商品となりました。
ライバル機アイアンコング
また、小学館の各学年誌で連載していたジオラマストーリーを編集した書籍、
通称「バトスト」こと、「ゾイドバトルストーリー」が発売。
筆者はゾイド星人で星間翻訳家が日本語に訳したと言う設定の徹底ぶりで、
ゾイドの世界観を戦記モノへと傾ける決定的な要因となります。
超大型ゾイド、ウルトラザウルス
店頭で配布される小冊子、ゾイドグラフィックスにも戦記モノの
ショートストーリーを掲載、商品の箱裏にはバリエーション機として
各所属部隊仕様や改造ゾイドのイラストが載るようになりました。
バトスト以前の小学館の書籍
「戦闘機械獣のすべて」
ゴジュラス、サラマンダー、ウルトラザウルスと、強力ゾイドを揃えた共和国軍に、
大型ゾイドがアイアンコングだけの帝国軍は、果たして対抗できるのか?!
レッドホーンにひと目惚れして以来、すっかり帝国寄りになっていた筆者は、
強力な帝国ゾイドの登場を心待ちにしていましたが、心配は現実のものとなり、
設定上で帝国軍は敗北、ゼネバス皇帝は中央大陸を去ってしまいます。
店頭配布の小冊子
ゾイドグラフィックス
≪5≫黄金期到来、新たなる可能性・・・
 ■1987年2月・・・中央大陸を追われ、暗黒大陸に逃げ延びていた帝国軍が帰ってきます。
「リターンオブゼネバス」と銘打ち、後の旧ゾイド第二期とも言えるシリーズが始まりました。
シリーズ開始の目玉となる水陸両用の新型ゾイド、
「ウオディック」から従来のものより強力なゼンマイを搭載、
ギミックを増やしたHiパワーゼンマイシリーズがスタート。
同時に初期から発売されていたマイクロゼンマイゾイドは、
シーパンツァーを最後に過去商品の再販のみとなります。
新型ゼンマイのウオディック
もちろんお風呂で遊べる
この頃にはキット以外に、他社からゾイドブランドで、
文具や衣料、ボードゲームにカード類、食玩等が次々に発売、
ゾイドは加速度的に各方面で商品展開していきました。
ボードゲームブームに乗り
ゾイドもボードゲーム化
販売はエポック社から
また、アメリカのアクションフィギュアブームを参考に、
バトストで使われているフォトストーリーと言う表現方法の
第一人者でもある、イラストレーター兼モデラーの横山宏氏を
デザイナーに起用し、新たに24分の1スケールで企画された
「ゾイド24」シリーズもスタート。
ゾイドと塗装済み完成品のアクションフィギュアをセットにした意欲的なシリーズでしたが、
子供達への反応はあまり良くなく、いくつかの企画を残したまま立ち消えとなりました。
白いボディが特徴の帝国側24ゾイド
右の蠍型電動ゾイド、デスピオンは
グッドデザイン賞も受賞している
余談:帝国側24ゾイドが、今までに無い白を基調にしているのは、
デザイナーである横山氏の譲れない部分だったそうです。
この頃にはアニメ化の企画も何度か持ち上がりましたが、
線の多いゾイドをうまく表現するのが難しく、計画は難航、
結局この時点で、夢のアニメ化には至りませんでした。
それとは別にファミコンブームに乗って続々とテレビゲーム化。
ゾイドはゲームとの相性が良かったらしく、ファミコンで3作、
ゲームボーイで1作、パソコンで1作発売、大人気となります。
余談:パソコン版はファミコン版1作目の移植でMSX用に販売。
2作目の移植予定もありましたが、残念ながら中止となりました。
家庭用ゾイドゲームの数々
この頃いくつかのアーケードゲーム会社で「ゾイドのゲームを作れないか?」
と言う企画があったようです。ですが、ゲームセンターでゾイドを遊べるという夢のような企画は
この当時、残念ながら実現されることはありませんでした。
余談:タイトーのアーケードクイズゲームに、ゾイドに関する問題が出題された事があります。
 ■1987年9月・・・遂に帝国軍待望の超大型ゾイド、「デスザウラー」が登場。
ゴジュラスを上回る2足歩行の恐竜型ゾイドで、超強力兵器「荷電粒子砲」を装備。
この最強ゾイドの力を持って帝国軍は進撃を開始、遂に共和国首都占領に成功します。
小学館からは好評だった「ゾイドバトルストーリー」の2冊目が発売。
なんと表紙はデスザウラーで帝国パイロットが主役という内容になっており、
学年誌でコミカライズされたストーリーをまとめた「ゾイドバトルコミック」も発売。
ゼネバス帝国ファンには至福の「デスザウラー最強時代」がやってきました。
余談:旧時代に最高の売り上げを記録したのは共和国ゾイドではなく、
帝国の「サーベルタイガー」だったと言うことからも帝国軍の人気が窺い知れます。
ゼンマイではコマンドウルフ、ガイサック、ゴドスが売り上げ上位で共和国優勢です。
ゾイドバトルコミック
主役のトビーは帝国兵
荷電粒子砲を搭載した
帝国側デスザウラー
ゾイドの音楽では作曲家の久石譲氏がファミコン版ゾイドのBGM作曲を手がけ、
そのアレンジバージョンを収録したカセットテープ「ゾイドバトルミュージック」が発売。
(当時はまだCDがあまり普及していなかったので、カセットテープ版のみで販売)
ゾイドのイメージアルバム的な内容で、冊子付き形態の玩具流通のみで発売されました。
高速ゾイド、サーベルタイガーに対抗して登場した、共和国軍初のライガータイプ、
シールドライガーのTVCMでは、新人アイドルがイメージソングを歌う衝撃的な内容で、
その話題性と忘れられないフレーズがファンの記憶に残っています。
ゾイドバトルミュージック
第2弾のCDはゲームソフト
購入者向けに抽選で配布
 ■1988年・・・首都を追われた共和国軍は中央大陸各地に散りゲリラ戦を展開。
対デスザウラー用ゾイドとして共和国側24ゾイドや野牛型砲撃ゾイド「ディバイソン」を開発。
決戦用の超巨大T型(トリケラトプス型)ゾイド登場まで時間を稼ぐ作戦に出ました。
ゾイドバトルストーリーは3冊目が発売。内容はより人物描写に凝るようになり、
共和国大統領ヘリックを中心に濃密な人間ドラマと、様々なゾイドが魅力的に描かれました。
 ■そして1988年10月・・・共和国軍に超大型決戦ゾイド「マッドサンダー」が登場。
全身を分厚い装甲に固め、デスザウラーの荷電粒子砲を無効化する反荷電粒子シールド、
高速回転する巨大なドリル「マグネーザー」と、ハイパーローリングチャージャーを装備。
胴体中央には司令室もある完全武装のゾイドで、まさに決戦用にふさわしい大迫力でした。
年末には東映特撮スタッフが製作した新作映像と過去のプロモビデオやCMを
再編集し収録した初のビデオソフト「ゾイドバトルビデオ」も玩具流通で発売。
マッドサンダーはラストに登場し、デスザウラーとの決戦を向かえます。
バトルストーリーは4冊目が発売。両軍の科学者の立場からストーリーが展開、
開発合戦に苦悩する帝国の若き科学者マイケルが導き出す答えを追います。
ゾイドバトルビデオ
旧時代唯一の映像ソフト
振り返ってみると、デスザウラー登場からマッドサンダー発売までの1年が、
旧ゾイド黄金時代のピークだったのかもしれません。
共和国軍の切り札
超巨大ゾイド、マッドサンダー
余談:バブル絶頂期という事もあり、この頃のゾイドの最低価格は1000円。
再販もされていましたが、新製品の最低価格は更に引き上げられていきます。